経営者保証は、交渉ではなく準備で外れる

「うちはまだ無理ですよね」

経営者保証の話になると、この言葉をよく聞きます。

会社の借入を、社長個人が背負う。あの重さを知っている人ほど、期待すること自体をやめてしまう。

でも先月、金融庁の資料が更新されました。数字は、思っているより動いています。


目次

55.7パーセントという数字の読み方

7月31日、金融庁が「経営者保証に関するガイドライン」等の活用実績を更新しました。

民間の金融機関が新しく実行した融資のうち、経営者保証に依存しない融資は55.7パーセント。2015年度は12.2パーセントでした。件数にすると、約122万件です。

10年で4倍以上。たしかに、景色は変わりました。

ただ、この数字の読み方には注意が必要です。

これは「新規融資の件数」に占める割合です。いま借りている分を含めて、融資全体の半分以上で保証が外れた、という意味ではありません。

実際は、保証を付けたまま返済を続けている会社のほうが、まだ多い。相談の場で見ている限りも、そうです。

数字は追い風。でも、黙っていて自動的に外れるものではない。そこは分けて考えたほうがいいと思っています。


外せるかどうかを分けている、3つのこと

では、外せる会社と外せない会社は何が違うのか。

銀行との交渉が上手いかどうか、ではありません。見られているのは、社長個人ではなく、会社そのものの信用力です。

主に確認されるのは、次の3点でした。

1つ目。法人と個人が分かれているか。

会社から社長への貸付金や仮払金が膨らんでいないか。個人的な支出が、会社の経費に混ざっていないか。

ここが混ざったままだと、銀行は「会社だけを見て判断する」ことができません。だから、社長個人の保証で埋めることになる。順番としては、まずここです。

2つ目。会社単体で返せる財務になっているか。

黒字かどうかだけではありません。返済額に対して、十分なキャッシュフローがあるか。手元資金を、一定額キープできているか。

「利益は出ています」と「返せます」は、別の話です。銀行が見ているのは後者のほうです。

3つ目。銀行に情報を出し続けているか。

決算報告だけでなく、試算表や資金繰り表を定期的に。業績が動いた理由。これからの見通し。打つ手。

信頼は、一度の説明では積み上がりません。続けて出しているという事実が、そのまま材料になります。

この3つ、どれも一晩では作れません。逆に言えば、今日から積める種類のものです。


いま借りている分も、相談できる

見落とされやすいのですが、保証の見直しは新規融資だけの話ではありません。

  • 財務内容が改善したとき
  • 債務超過が解消したとき
  • 借換えや追加融資を行うとき
  • 事業承継のとき

こうしたタイミングでは、既存の借入についても保証解除を相談できる可能性があります。

その相談の前に、まず1枚の表を作ってください。

  • 金融機関名
  • 借入残高
  • 信用保証協会の利用の有無
  • 担保の有無
  • 経営者保証の有無

この5列が埋まっていない状態で銀行に行っても、話が具体的になりません。

自社の借入を、社長自身が一覧で説明できること。それ自体が、情報開示の入口です。


銀行によって、取り組みの差は大きい

同じ2025年度の実績でも、金融機関ごとの差は小さくありません。

地方銀行の上位5行は、北國銀行90.8パーセント、西京銀行85.0パーセント、琉球銀行82.8パーセント、山陰合同銀行82.1パーセント、東日本銀行81.7パーセント。全国平均の55.7パーセントを大きく上回っています。

ただし、この割合は融資先の構成や商品内容にも左右されます。数字が高い銀行なら外れる、という単純な話ではありません。

一方で、こうも言えます。一つの銀行で保証を求められたからといって、どこでも同じ判断になるとは限らない。

ここで気をつけたいのは、順番です。保証を外すことだけを目的に、取引銀行を変えにいくのは違います。先に整えるのは、自社の財務内容と、開示のしかたのほうです。


断られたときに、必ず聞いておくこと

相談しても、外れないことはあります。そのときに、そのまま帰らない。

「何を改善すれば、再検討していただけますか」

この一言だけは、必ず聞いてください。

返ってくるのは、たとえばこんな答えです。

  • 債務超過の解消
  • 役員貸付金の削減
  • 試算表の定期提出

断られた理由は、次の目標そのものです。

漠然とした「財務を良くする」が、期日と数字のある宿題に変わる。これは、相談しなければ手に入りません。


父の会社には、その一覧がなかった

私の父は、空調設備の一人親方でした。資金繰りにずっと苦労して、最後は体を壊して廃業しています。

当時の私は、その中身を何も知りませんでした。どこから、いくら借りていたのか。誰が保証していたのか。

たぶん父自身も、1枚にまとめたことはなかったと思います。

見えていないものは、相談もできない。私が資金繰りの話にこだわるのは、たぶんここが出発点です。


今日できる一歩

経営者保証を外すのは、交渉ではなく準備です。

会社と個人を分ける。返せる形にする。出し続ける。

どれも、今日いきなり完成はしません。半年、1年かかる話です。

でも、借入の一覧を1枚作ることなら、今日できます。5列を埋めるだけです。

その1枚があると、次に銀行と何を話せばいいかが見えてきます。そして、外せる会社に近づいているかどうかを、自分で確認できるようになります。

いま手元に、自社の借入を1枚で説明できる表はありますか。


次の記事とお知らせ

次回は、その1枚を銀行にどう見せるか。資金繰り表の作り方を書きます。

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※本記事の数値は、金融庁「『経営者保証に関するガイドライン』等の活用実績」(2026年7月31日更新・2025年度実績)によります。

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